増えるガン治療~歯科の役割~

全身疾患

がんのやっかいな所

  • 誰でもなる可能性がある
  • 予防できるが、完全には防げない
  • 早期なら治る可能性が高いが、特徴的な症状がなく発見が難しい
  • 治ったと思っても転移・再発することがある
  • 転移すると完全に治すことが難しい
  • がんの症状、臓器の障害、治療の合併症、副作用で様々な苦痛を起こし、日常生活に支障が出る
  • 別のがんになることがある
  • 命を奪う原因になる

転移

がん細胞が最初に発生した場所とは別の場所に到達し、そこで増殖して腫瘍を作る

  • がん細胞が100万個(わずか1mm程度)に達すると転移が起こりだす
  • 原発巣から離れた細胞の数百万個に1個が転移巣を作る(ハードルは⾼い)
  • 発⾒時期 初めてがんが発⾒された時=Stage 4、がん治療後=転移再発

再発

治癒により一旦臨床的に消失したガンが再び出現すること

局所再発:原発部位に残った目に見えない小さながんが、次第に大きくなって発見

転移:検査で見つからなかった微小な転移が大きくなって発見

がんは長く付き合う慢性疾患

急性疾患慢性疾患
発症緩徐
原因一つ、外的要因多い、内的要因
経過短い長い
転帰治癒、軽快、死亡緩徐に進行し、死亡も

慢性疾患の終末期の経過 典型的な3つのパターン

終末期=最善の治療を行っても病状の好転や進行阻止が見込めず、近い将来における死が避けられない状態

がん:比較的長い期間、機能が保たれる。死亡の2カ月前から急速に機能低下。

臓器不全(心不全など):入院のたびに徐々に機能が低下。2~5年の経過で、最後は急変して死亡。

老衰・認知症:6~8年の経過(個人差大)でゆっくり機能低下していく。

がんは年々増加

1年に約99万人ががんと診断(2021年)

1年に約38万人ががんで死亡(2023年)

一生のうちにがんと診断される確率(2021年)

男性63%、女性41%(2人に1人

がんで死亡する確率(2023年)

男性25%(4人に1人)、女性17%(6人に1人

・男女ともに50代から80代が増加する

・男性は60代から急増し、女性を追い越す。

がんの治療

初期治療

局所療法(⼿術・照射)単独
⼿術→術後療法(薬物・照射)
術前療法(薬物・照射)→⼿術

術前療法の利点:

  • 治療効果がわかる
  • ⼿術不能がんが切除可能になる
  • 縮⼩⼿術ができる

術前療法の欠点:

  • 進⾏することがある
  • 検査回数増(費⽤が増加)
  • ⼿術合併症増加

転移・再発がんの治療

⽬的︓緩和・延命・QOL向上

  • 多くの場合、薬物療法が中⼼
  • がん種、病状によっては⼿術・照射
  • ⾻転移があるときは⾻吸収調整薬
  • 苦痛に対する緩和療法

がんの手術

病状(目的)方法
初期治療治癒を⽬指してがんの完全切除を⽬指す
・周囲組織を含めた病巣切除とリンパ節郭清
転移再発緩和、延命、QOL維持を⽬指して
必要最⼩限の⼿術で症状の改善を⽬指す
・消化管出血など、皮膚潰瘍、感染のコントロール
・脳転移による神経症状の回復
・骨転移による脊髄圧迫や骨折に対する手術
機能維持
形態維持
再建
・失われた機能の回復(消化管再建など)
・QOLの維持(乳房再建など)
・両者(口腔顎顔面再建など)

がん手術の問題点

切除範囲が広く侵襲が⼤きい
変形、機能障害を起こしやすい
⾼齢者の⼿術の増加

•フレイル、⽣理的予備能⼒低下、複数の慢性疾患併存
•合併症を併発すると回復に時間を要する

      

  • ⼗分な併存疾患管理
  • 綿密な周術期管理と周術期合併症の予防対策
  • ⽇常⽣活への影響・QOL低下の最⼩化

全身麻酔・手術の主な合併症

⼿術部位:

  痛み、出⾎、創感染(異物を留置する⼿術では要注意)、傷、ケロイド、変形、機能障害、縫合不全など

全身:

  • 嘔気、嘔吐、頭痛、喉の痛み、声のかすれ、喉の渇き
  • 悪寒、発熱、喉頭痙攣、アレルギー、ショック
  • ⻭⽛、⼝唇、⼝腔粘膜の損傷
  • 肺炎、敗⾎症などの感染症
  • 無気肺、気管⽀喘息、呼吸不全
  • ⾎栓症、肺塞栓症(エコノミー症候群)、DIC
  • ⼼不全、⼼筋梗塞、腎不全、脳卒中
  • 膀胱炎様症状、排尿困難
  • 悪性⾼熱など

     

⼊院期間が延⻑、社会復帰が遅れる、⽇常⽣活に影響、QOLが低下
術後治療に影響(計画、成績)
命に関わる

手術の歴史(最大の障壁:痛み、感染)

19世紀半ばまでの⼿術は激痛!

•瀉⾎、縫合、切断などに限られていた
•抑えつけて患者の悲鳴を聞きながら電光⽯⽕で⼿術
•死亡率が⾼く命がけ
•外科医は冷⾎、冷酷、強い体⼒が必要

19世紀半ばに全⾝⿇酔が開発

•1842年にロングが始め、1846年にモートンが公開実験に成功
•より多くの⼿術が可能になり、外科医は腹部を開け始めた
•しかし、⼿術死亡率は以前より悪化

19世紀後半に無菌⼿術が開発

•1847年ゼンメルワイスが⼿洗いを指⽰
•1861年パスツールが⾃然発⽣説を完全否定
•1865年リスターが⼿術で消毒を初めて実施
•1876年コッホが病原菌を発⾒

今や、麻酔と感染対策は常識

麻酔

局所麻酔:手術部位の除痛(意識や呼吸は保全)

全身麻酔:

  • 全⾝のどこでも⼿術可能
  • 鎮静(意識消失)、鎮痛
  • 筋弛緩(⾃発的に動けない)
  • 副交感神経反射の抑制
  • 唾液分泌が低下
  • 気管内挿管、⼈⼯呼吸

感染対策

  • 術前管理(感染リスクの評価、糖尿病などの管理など)
  • ⼿指消毒
  • マスク、帽⼦、ガウン、⼿袋の着⽤
  • ⼿術部位の⽪膚消毒
  • 覆布
  • 器具、器材の滅菌消毒
  • 空調管理
  • 予防的抗菌薬
  • 術後の創管理
  • ディスポ化

⼝の中には細菌がたくさん存在するにもかかわらず、口腔ケアはおろそかになりがち

ERAS(Enhanced recovery after surgery、術後回復強化プログラム)の導入

⼿術の三⼤苦痛︓痛い、動けない、⾷べられない

従来管理:⼿術したから苦痛は仕⽅ない(根拠のない慣習的な⽅法で管理)

ERASによる管理:

  • 多職種チーム
  • エビデンスに基づいた集学的な周術期管理
  • 周術期合併症を減少し、早期回復を促進

実は誤嚥が必発している

気管内挿管中は誤嚥が必発

唾液、⿐汁、胃液が流れ込んでも喀出・嚥下ができない
気管内吸引により細菌が侵⼊
加湿器内で繁殖した細菌を吸⼊
抜管直後は⼀時的に呼吸機能が低下し喀出が不⼗分
術後も集中治療などで⼈⼯呼吸が必要な場合がある

  • カフ圧が⾼いと気管粘膜を損傷
  • カフ圧が低いと、空気が漏れたり、
    咽喉頭に貯留した分泌物が流れ込む

術中の歯の脱落は危険

すでに弱って揺れてしまっている歯は、気管挿管の際などに抜け落ち、肺に入ってしまうかも・・・

【全身麻酔・手術時に歯牙損傷、脱落した歯の誤嚥】

発⽣率:

0.1〜0.3%(1000〜300件に1件)
(報告者によりかなりの差がある)

発⽣時期:

•挿管時、体位変換時、抜管時
•患者が無意識に⻭を⾷いしばった時や
頭を動かした時

患者側要因:

•⻭⽛の動揺がある
•挿管困難症(頸椎の可動域制限、開⼝制限、
⻭列異常、⼩顎などで喉頭展開が難しい

対策:

•⻭科による術前の⼝腔内チェック、処置
•マウスガードの作製

術後も誤嚥が起こりやすい

  • 意識状態、神経活動が低下(抜管直後、脳⼿術後など)
  • 創部痛のため呼吸が浅く、咳が低下
  • 経⿐胃管挿⼊による咽頭知覚の低下が持続
  • 反回神経⿇痺(頚部・胸部の⼿術後)
  • 嚥下機能の低下(特に、⼝腔咽頭、⾷道の⼿術後)

誤嚥性肺炎を起こすと
•経⼝摂取が遅れる
•気管切開が必要になる可能性
•社会復帰が遅れる
•術後治療の開始が遅れる

誤嚥性肺炎の予防と経⼝摂取再開の⽀援が必要

放射線療法

1.根治を⽬指して単独あるいは⼿術・薬物療法と併⽤
2.⾻転移による疼痛、脳転移の制御などの緩和⽬的

利点:

•根治を望める場合がある
•侵襲が⼩さい(⾼齢者でも可能)
•臓器温存が可能(切らなくてすむ)

欠点:

•治療期間が⻑い(6-8週くらい)
•原則1ヶ所あたり1度のみ
•照射後の⼿術は合併症が増加
•がん以外の組織も被曝(合併症)

放射線治療の合併症

•放射線が当たった範囲(部位)で起こる
•急性期反応と晩期反応がある
•出現する症状の程度には個⼈差がある
•⼆次がんの発⽣リスクがあるが稀。⼼配するよりも病気の治療が優先

急性期反応:

•治療開始後から照射後数週間
•多くの⼈に⽣じる可能性があるが、治療が終われば徐々に回復(可逆性)

晩期反応:

•照射後数か⽉から数年で⽣じる
•稀だが、回復困難(不可逆性)あるいは回復に時間を有する

頭頚部への照射による口腔内合併症

急性期:

•粘膜炎
•味覚障害
•唾液分泌低下(⼝腔内の乾燥)
•感染症(特に、カンジダ症)
•嚥下機能の低下

晩期:

•⾻髄炎・顎⾻壊死
•瘢痕形成・開⼝障害・軟組織壊死
•放射線う蝕

    

⽇常⽣活・社会復帰に⽀障
がん治療に影響

抗がん剤療法

薬は全⾝にいきわたるので全⾝療法とも呼ばれる
がん細胞の増殖を制御する
正常細胞にも作⽤し様々な副作⽤を起こす

•抗がん剤(化学療法薬)
•分⼦標的薬(抗体医薬・⼩分⼦治療薬)
•内分泌療法(ホルモン療法)薬
•免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)

効果・安全性が確認され、ガイドラインで推奨されている標準的な治療法を選択
標準的な投与量、スケジュールを守る(レジメン遵守)
副作⽤対策を講じて⽤量強度を保つ

抗がん剤の主な副作用

  • ⾻髄毒性(好中球減少、⾎⼩板減少、貧⾎)
  • 脱⽑
  • 感染症
  • ⼝内炎
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢・便秘
  • 肝機能障害・腎機能障害・⼼毒性・間質性肺炎
  • ⽪膚障害
  • 味覚障害・嗅覚障害
  • 末梢神経障害
  • 出⾎性膀胱炎
  • ⽪膚障害
  • ウイルス再活性化
  • 妊孕性への影響

抗がん剤治療中の主な口腔内トラブル

•⼝内炎、粘膜炎
•⼝腔乾燥症
•味覚障害
•⻭⾁出⾎

•感染

•末梢神経障害

•⾻髄炎、顎⾻壊死

侵襲的な⻭科治療が必要な場合
•⽩⾎球数(発熱性好中球減少)、⾎⼩板数に注意
•薬物療法のスケジュールと⻭科治療のタイミングを確認するなど、医科と⻭科の間で情報共有が必要

集中治療・緩和ケア

●⽣命の危機にある重症患者を、24時間を通じた濃密な観察のもとに、⾼度な医療技術を駆使して強⼒かつ集中的に治療すること
●⼈⼯呼吸中、絶飲⾷中、⼝腔ケアが制限されている患者が多い

①意識障害あるいは昏睡
②急性呼吸不全あるいは慢性呼吸不全の急性増悪
③急性⼼不全(⼼筋梗塞を含む)
④急性薬物中毒
⑤ショック
⑥重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病など)
⑦広範囲の熱傷(⽕傷)
⑧⼤⼿術後(⼼臓⾎管外科、消化器・⼀般外科、脳神経外科など)
⑨救急蘇⽣後
⑩その他、外傷や破傷⾵などの感染症で重篤な状態

がんの場合:
治療に関連しておきた呼吸・循環・代謝などの急性機能不全や、侵襲の⼤きい⼿術後などが対象

緩和ケアとは

  • 苦痛に焦点を当てたケア
  • 苦痛を予防し緩和することにより、患者・家族の⽣活の質(QOL)を改善する取組
  • ⼈がその⼈らしく⽣き抜くために、さまざまな専⾨職からなるチームで、がんに伴う⼼と体のつらさを和らげる取組
  • ⽣命を脅かす病に関連する問題に直⾯した患者と家族が対象

がん患者が経験する苦痛

●70%は痛みを感じる
●痛みだけでなく、複数の苦痛を体験

  • 倦怠感32~90%
  • 呼吸困難 10~70%
  • 悪⼼・嘔吐 6~68%
  • ⾷欲不振 30~92%
  • 抑うつ3~77%
  • 不安13~79%

緩和ケアはいつ始めるか

終末期の口腔ケア

●終末期医療の目標は、患者さんが穏やかに尊厳を持って自分らしく死を迎えられること

●死期が迫った終末期にも様々な口腔トラブルが発生する!

・身体的な苦痛に注意やケアが集中しやすく、口腔トラブルへの対応が後手に回りがち

・全身状態の悪化によりセルフケアが困難に

口腔トラブル

  • 口腔乾燥
  • 口腔カンジダ
  • 口腔粘膜炎
  • 口臭
  • 口内不衛生・舌苔
  • 口内出血
  • 味覚障害
  • 義歯の不具合、齲歯

結果

  • 身体的苦痛を増強
  • 精神的苦痛を増強
  • 社会的苦痛を増強
  • QOL低下
  • 感染リスク上昇
  • 内服、症状緩和が困難
  • 水分摂取量、経口摂取量減少
  • 食べる楽しみが減少

苦痛を軽減するために口腔ケアが必要

がん予防

がんの一次予防(リスク低減)

がんになりやすい要因を除く

がんのリスク因⼦(危険因⼦)

  • 遺伝
  • 加齢
  • ⽣活習慣
  • 感染
  • 職業
  • 環境要因
  • ⽣殖、ホルモン環境
  • 医薬品、放射線など

科学的根拠に基づくがん予防

日本人のためのがん予防法(5+1)

  1. 禁煙
  2. 節酒
  3. 食生活の見直し:塩分を抑え、野菜を食べ、熱いものは少し冷ます
  4. 運動
  5. 適正体重の維持

+感染症の検査

  • B型肝炎  ←ワクチン
  • C型肝炎  ←治療
  • ピロリ菌  ←除菌 
  • HPV    ←ワクチン
  • HIV    ←人工栄養、コンドームによる避妊

生活習慣や感染は自分の努力である程度なんとかできる


がんの二次予防(がん検診)

種類対象間隔検査法
胃がん50歳以上(69歳以下)2年ごと胃内視鏡
大腸がん40歳以上(69歳以下)毎年便潜血検査
肺がん40歳以上(69歳以下)毎年胸部X線、喀痰検査
乳がん40歳以上(69歳以下)2年ごとマンモグラフィ
子宮頸がん20歳以上(69歳以下)2年ごと視診、内診、細胞診
総合がん検診40歳、50歳節目検診上記の検診を同時に実施

遺伝性腫瘍の存在

  • ⾎縁者にがんが多い
  • 家系内に稀ながんの⼈がいる
  • 家系内に若くしてがんになった⼈がいる
  • 同じ臓器に複数個のがんができる(多発がん)
  • 複数の臓器にがんができる(重複がん)
  • 左右にある臓器の両⽅にがんができる(両側性)

対策:遺伝カウンセリング、遺伝子診断、個別化治療

がんの予防と検診のポイント

  • 予防には⽣活習慣の改善が⼤切(遺伝⼦は弾を込め、環境は引き⾦を引く)
  • 対象年齢になったら科学的根拠のあるがん検診を定期的に受ける(繰り返し受ける)
  • 要精査と判定されたら、必ず医療機関で精査を受ける
  • ⾃覚症状がある時は医療機関を受診
  • 遺伝性腫瘍の可能性に注意

がん診療と周術期口腔管理のまとめ

がん診療と関連したトラブル
口腔内・粘膜損傷 
・軟部組織壊死、瘢痕形成、開口障害
・歯牙損傷、脱落
・口内炎、粘膜炎
・骨髄炎、顎骨壊死
・感染
・口臭、口内不衛生、舌苔
・口腔乾燥症
・う蝕
・味覚障害
・義歯の不具合
・歯肉出血
・疼痛など 
口腔外・誤嚥性肺炎、敗血症、創感染などの感染症

           ⇩⇩

  • 術後の早期回復に影響、がんの治療に影響
  • 口の4大機能の障害(飲食、会話、呼吸、表情)
  • 日常生活に影響、QOLが低下
  • 命に係わる