トラウマにさせないアプローチと予防習慣の土台作り
無理やりな処置は問題の本質的な解決にならない

宇佐見歯科医院では、TSD法でお子さんの処置を行います。いわゆるTELL(言って)SHOW(見せて)DO(処置)です。
基本的に3歳以上のお子さんは一人の人格者です。言葉の理解力が一気に上がっていきますので、恐怖を理性でコントロールができていきます。
具体的にはTSD法は系統的脱感作療法の一種で、お子さんにこれから行うことを口で説明し、使う道具を見せあるいは手鏡などでこれから処置をする場所を示して、説明した通りの処置を行うという事です。
30年前から行われている伝統的な方法なんですが、実際の現場では保険診療でそんなに時間をかけていられないという声が現実にはあります。治療に強引さが出るのは、一回にかけられる時間が限られている現状の表れでもあります。それがひいては麻酔による悲しい事故にも繋がってしまう一因なのです。
私が一番避けたいと思っている事が歯医者トラウマの形成です。大人になって痛いのを我慢して我慢していよいよ夜も眠れない状況が続きやっとの思いで治療に来ましたという方が当院には結構な確率でいらっしゃいます。
しかし、その状況で出来る処置はまたしてもトラウマ級になるような外科処置になっていることも多いのです。この負のループの根源はやはり小児期の最初の処置・対応にかかっているのです。
お子さんのタイプは様々ですので、お子さんによっては理性が恐怖をなかなか抑え込めない場合や、2歳以下でTSD法の対象にならない場合でむし歯を作ってしまったら、まず処置をいきなり始めるよりも親御さんの健康意識・食事習慣から改善することを強くお勧めします。そこには次に述べるようなデータの存在があります。
最新の小児むし歯への考え方
かくいう私も歯科治療には恐怖があり、小学校低学年までは乳歯むし歯があっても放置していました。それでもフッ素の習慣や甘いお菓子の摂取はそこまで好きにならなかった教育のおかげでむし歯が永久歯に及ぶことはなく、歯並びもほぼ正常咬合となりました。
この体験が以下のデータによりエビデンスとなって周知されることとなったのです。
2019年に発表されたのは、英国のプライマリーデンタルケアにおける乳歯の虫歯管理について、3年間にわたる3つの治療戦略での臨床効果についての比較です。対象は、3歳から7歳の少なくとも乳臼歯に1つ以上のむし歯を持つ1,144名です。
治療戦略は以下の3種類です。
- 予防のみ!むし歯は治療しないで、食事療法・プラーク除去・フッ化物塗布・永久歯へのシーラント処置を行う
- 深いところのむし歯を完全に取らず樹脂で密封する+予防処置
- 完全にむし歯を取り切り、金属冠や詰め物で修復+予防処置
これらの中でどの治療グループが一番痛みが出たり、再感染が起きなかったかの比較です。
皆さんはどのグループだと思いますか?
私ども歯科医師が通常行っている大人の治療であれば間違いなく3番の感染源を完全に除去することが常識だと考えます。
⇒結果はなんとどれも差がなかったとの結果でした!
つまり、むし歯の治療を完全に行おうが、応急的に済ませようが、削らず何もしなかろうが、予防処置をしっかり行っていれば、新たなむし歯の発生やむし歯の悪化はそこまでせず、痛みも出ないというものなのです。その間に永久歯へと生え変わっていけば、むし歯のない状態に誘導できるという画期的な研究結果です!
この結果をもって、なーんだ治療しなくていいんだ!とか歯医者で虫歯予防を任せてしまえばもう大丈夫なんだ!と安易に考えないでください。食事習慣を変えることはそう簡単ではありません!お子さんの生活習慣は親御さんの鏡写しなのです。まずは親御さんの意識を変えることがスタートラインとなるのです。子育てを通じて自らが勉強になることを理解してください。

具体的な予防方法とは
お子さんにもしむし歯ができてしまったら以下の3つを徹底してください。
- 食生活の見直し
- 適切な歯磨き
- フッ素を用いた予防
そして、治療ができる適切な時期になったら治療を行い歯の形態を元に戻していく事が大切です。

食生活の見直し



親御さんにとって一番難しい問題だと思います。食事や間食をするたびに口の中は酸性になります。だらだら甘い物を食べていると、唾液による中和が追い付かず、歯が溶けやすい状況となります。
また、ジュースやポカリスエットなどは前歯のむし歯の原因となり、壊滅的な多数歯むし歯に発展してしまうケースもあります。
規則正しい食事時間と間食のサイクル、また甘いおやつあるいは甘いジュースの制限をしてください。親御さんの糖尿病対策にもなります。そしてカテキンの入ったお茶をお勧めします。
当院ではお子さんの経過を診ることにより、むし歯リスクの高い部位を発見し、今後起こりそうな事を推測し、効果的な食習慣の改善せ策をご提案いたします。



歯磨きの改善
まずは親御さんがしっかりと自分の口腔ケアを行うことができることが大前提です。そのうえで、お子さんの仕上げ磨きを行うことを習慣にしてください。スマホで動画を見る時間があればできることです。
小学校までは特に前歯のきわをブラシで、乳臼歯の歯と歯の間は糸ようじでケアしてあげてください。YouTube動画やアプリを使って楽しみながらやることもお勧めです。
ただし、走り回って転ぶと歯ブラシが脳にまで突き刺さる事例もあり危ないので、落ち着かせることも大事です。
小学校に入るころには永久歯が生えてきますので、6歳臼歯は噛む面をブラシで、永久歯の前歯は糸ようじも使ってあげてください。
段々と恥ずかしがって自分で出来ると言い出しますが、自分で出来るわけではありませんので、ちゃんとチェックしてあげる必要があります。


フッ素塗布を用いた予防
フッ素によって歯の表面にあるハイドロキシアパタイトがフルオロアパタイトに変化する事で歯質が強化されむし歯になりにくくなります。
フッ素は萌出したての弱い歯を強化することができますし、むし歯菌の活動を抑制する効果もあります。
宇佐見歯科医院では、年に4回程度つまり3カ月に1回はフッ素を塗布し、お子様の歯を強く保つような習慣をお勧めしています。以前は自費治療でしたが、この方法は保険認可が下り、有効性が証明されているのです。
また、日本では子供用としてまだ低濃度フッ素の歯磨き粉しか販売されておりませんが、それでもフッ素塗布や洗口と併用することで高い効果が期待できます。

小児期の予防習慣が将来の8020へと結びつく
日本小児歯科学会によると、むし歯の総数は減少してきているが、2極化が進んでおり、むし歯がある子は複数のむし歯を抱えているという事です。
まさに教育による差という事に尽きます。
また、高校生までにかかりつけの歯科に受診するという習慣がない子にむし歯が多いというデータもあります。なじみの場所でないところに行くにはハードルが上がり、折角の学校検診の結果をないがしろにしてしまうというもったいない事になりがちだそうです。
親御さんが出来ることとしては、適切なかかりつけの歯科を見つけて早いうちから相談・予防処置・定期メンテナンスを受けることだと思います。

人生100年時代と言われる昨今、8020達成はもう昔の話となり、8020から先の歯の管理をどうするかに問題が移っています。お子さんの健康観の育成や、予防習慣の定着は生涯の資産形成です。生涯医療費の減少にもつながる健やかな一生を考えるきっかけになれば幸いと思います。

